麺の読み物
NOODLE NOTE
紙と勘からの脱却!AppSheet製造アプリで変わる はしづめ製麺の現場DX
2025.6. 3「製麺は職人の技がすべて」――その信念は、今も変わりません。
しかし、“技術の継承”と“安定した品質”をどう実現するかが、現代の製造現場に突きつけられた課題です。
はしづめ製麺では、職人の知恵と経験を、AppSheet製造アプリという新たな“道具”で見える化・仕組み化しました。
人の技を活かしながら、テクノロジーが支える。その融合こそが、私たちの考える真のDXです。
1. 製麺業界におけるDXの必要性と課題
1-1 なぜ今、製麺業界にデジタル変革が求められているのか?
製麺業界は長らく熟練の職人技や経験に支えられてきた伝統産業です。
しかし、近年では人口減少や高齢化の進行により、人手不足が深刻な課題となっています。特に製造現場では、「誰が・いつ・どのように」作業したかを正確に記録・管理する必要がありますが、多くの中小企業では依然として紙帳票による手書き管理が主流であり、情報の属人化や記録ミス、伝達漏れなどが発生しやすい状況にあります。
また、HACCP対応や品質保証の観点からも、製造記録の正確性・即時性が強く求められるようになってきました。このような背景から、アナログ業務のデジタル化(DX)が不可避となっており、作業の「見える化」や「標準化」、「効率化」を実現するためにデジタルツールの導入が急務となっています。
特に、Googleが提供するノーコードツール「AppSheet」のように、プログラミング知識がなくても業務アプリを内製化できる環境が整ってきたことで、中小製麺業でもDXへの取り組みが現実的かつ効果的なものになってきています。
1-2 手書き・紙管理の限界と非効率の実態
多くの中小製麺業では、製造レシピや製造記録を紙ベースで管理しているのが実情です。はしづめ製麺でもかつては、レシピをバインダーに綴じて現場に置き、作業者が紙を確認しながら製造するという運用をしていました。
しかしこの方法には、いくつもの非効率とリスクが潜んでいます。
情報の更新が手間:原材料の配合変更や製造条件の見直しが発生した際、紙の差し替え作業が煩雑で、旧情報が現場に残ってしまう危険がある。
- 現場の混乱:紙が破損・紛失・汚損することで、正しいレシピが即座に参照できず、製品ミスや手戻りが発生する。
- 作業履歴の記録精度が低い:誰が・いつ・どのように作業したかを手書きで記録するため、書き忘れ・記入漏れ・読みにくさといった問題が起こりやすい。
- 記録の集計・分析が困難:紙帳票を見直して傾向を掴む、あるいは不良発生時の原因調査をするには、膨大な紙を人手で確認する必要があり、時間も労力もかかる。
こうした状況では、製造現場の改善や品質管理の精度を高めるのにも限界があり、次のステップとしてデジタル化への移行が不可欠だと、はしづめ製麺は判断しました。
2. はしづめ製麺が採用したGoogle AppSheetとは?
2-1 AppSheetの基本概要と特徴
Google AppSheetは、Googleが提供するノーコード開発プラットフォームで、プログラミングの知識がなくても、スプレッドシートやデータベースを元に業務アプリを簡単に作成・運用できるツールです。
はしづめ製麺がAppSheetを採用した背景には、「現場のスタッフが自分たちで業務に合ったアプリを作り、柔軟に改善していきたい」という思いがありました。
AppSheetの主な特徴
- ノーコードで直感的な開発が可能
ドラッグ&ドロップ操作や条件設定だけで、見やすいUIのアプリを作ることができます。これにより、IT専門人材がいなくても内製化が進められます。
- Google Workspaceやスプレッドシートとの親和性が高い
既存のGoogleスプレッドシートをそのままデータベースとして活用できるため、初期構築がスムーズです。
- スマートフォンやタブレットでの運用に最適
現場での利用を想定し、レスポンシブ対応がされているため、持ち歩きながらの記録や確認が可能です。
- クラウドベースでリアルタイム同期
入力されたデータは即座にクラウドに反映され、複数人による同時更新や遠隔管理が可能です。これにより、紙のような情報の「滞留」が起きません。
条件分岐や通知機能、写真の添付、バーコード読み取りにも対応
製造業務に必要な要素が網羅されており、現場での実務に即した設計が可能です。
AppSheetは、ただのデジタル化ツールではなく、「現場で使える業務アプリを自分たちで作れる」時代を切り開くソリューションです。
2-2 ノーコードでできる業務アプリ構築の魅力
AppSheetの最大の魅力は、「ノーコード」で業務アプリが構築できる点にあります。従来の業務システム構築では、開発会社に依頼して数ヶ月かけて要件定義・設計・開発・テスト…というプロセスが必要でした。しかし、AppSheetではこの流れが一変します。
はしづめ製麺でも、現場スタッフが自分たちでアプリを作り、必要に応じて都度修正・改善するという運用が可能になりました。これは、以下のような魅力によるものです。
- 開発コストを大幅に削減できる
外注せずに社内で構築・運用ができるため、システム開発にかかるコストを抑えられます。また、導入後の保守・改修も社内で対応可能なため、ランニングコストも低く済みます。
- スピード感のある改善サイクル
業務内容は日々変化します。AppSheetなら、現場から「この入力項目を増やしたい」「この画面に注意事項を出したい」といった要望があれば、即日で反映できます。従来のような外注依存型では実現できない「現場主導の改善」が可能です。
- ITスキルがなくても扱える
AppSheetは、Googleスプレッドシートの知識があれば十分活用できます。専門知識がなくても直感的に操作できるUIが用意されており、若手からベテランまで幅広い世代が活用できます。
- 現場に最適化されたアプリを内製化できる
「本当に欲しい機能」「現場の流れに合った画面配置」は、外部の開発者にはなかなか伝わりません。AppSheetでは、現場の視点を反映した“痒いところに手が届く”アプリが実現できます。
3. 製造アプリ導入の背景と目的
3-1 はしづめ製麺が直面していた業務課題
はしづめ製麺が製造アプリの導入を検討する以前、現場にはいくつかの根本的な課題が存在していました。その最大の問題は、「誰でもできる仕組み」が整っていなかったという点です。
- 作業が属人化していた
製麺作業には微妙な加減や調整が求められますが、その多くが熟練職人の勘や経験に依存していました。「この気温なら水の量は少し減らそう」「今日は粉の状態が違うから時間を延ばすべき」など、言語化されていない“暗黙知”が多く存在していたのです。
このような状態では、新人や他のスタッフが同じ品質を再現することが難しく、教育にも時間がかかるという課題がありました。つまり、職人の不在=品質の不安定化を招くリスクを常に抱えていたのです。
- 業務の標準化ができていなかった
レシピも紙で管理されていたため、作業の手順や分量が人によって微妙に異なってしまうこともありました。「何となく」「いつも通り」といった曖昧な判断が積み重なることで、製品のバラつきやクレームにつながる恐れもありました。
- 情報共有が不十分だった
紙や口頭での引き継ぎでは、作業ミスや伝達漏れが起こりやすく、現場全体での情報の統一が難しい状況でした。さらに、トラブルが起きた際の原因追跡も困難で、改善活動が後手に回ることが多々あったのです。
こうした課題に真正面から向き合い、「職人でなくても高品質な製麺ができる仕組み」を構築するために、はしづめ製麺はAppSheetによる製造アプリの導入を決断しました。
3-2 アプリ導入による業務改善のビジョン
AppSheetを活用して製造アプリを導入したことで、はしづめ製麺の現場は大きく進化しました。その最大の変化は、「職人の勘」に依存していた作業が、データとテクノロジーに基づく再現可能な仕組みへと変わったことです。
- 加水量の自動調整で品質を安定化
製麺の命ともいえる「加水量」は、その日の温度や湿度に影響を受けやすい繊細な作業です。以前はベテラン職人が長年の勘で調整していましたが、現在は温度・湿度センサーを導入し、リアルタイムで環境データを取得。これにより、その日の気候条件に応じた最適な加水量がアプリ上で自動計算される仕組みが構築されました。
- すべての作業工程をAppSheetで一元管理
仕込みから加水、ミキシング、成形、包装に至るまで、全ての工程がAppSheet上で管理可能に。作業者はアプリ上で手順を確認し、進行状況をリアルタイムで記録。管理者も進捗や異常を即座に把握できる体制が整いました。
- 日々の仕込み量も自動で算出
その日の受注数や在庫状況をもとに、必要な仕込み量は自動で計算・表示されます。これにより、過剰生産や材料の無駄を削減し、効率的な製造が可能となりました。
- 職人の「腕」をデジタルで引き継ぐ
AppSheetを通じて蓄積されたデータとノウハウは、職人の技術を形式知化し、誰でも再現できるレベルにまで高めることができました。テクノロジーは、職人の技を置き換えるのではなく、誰もが“職人レベル”の品質を実現できるように支援する存在となっています。
このように、アプリ導入によって、属人的だった現場は「再現性・可視化・最適化」された環境へと生まれ変わりました。
4. 製造アプリの具体的な機能と使い方
4-1 製造工程の可視化:リアルタイムな進捗管理
はしづめ製麺では、AppSheetを導入することで**製造工程の「見える化」**を実現しました。従来は、作業がどこまで進んでいるかを把握するには、現場へ足を運び、作業者に直接確認するしかありませんでした。しかし現在は、アプリ上で進捗状況がリアルタイムに共有・管理されています。
- 各工程のステータスをアプリで一元管理
仕込み、加水、ミキシング、成形、包装…といった一連の工程ごとにステータス(未着手/進行中/完了)を記録。作業者がアプリでボタンをタップするだけで進捗が即時反映され、管理者や他工程の担当者も遠隔で状況を把握できます。
- タブレットやスマホでどこでも確認可能
製造現場の各所に配置されたタブレットや、個人のスマートフォンでもアプリにアクセス可能。担当者ごとの作業一覧や完了予定時刻なども確認でき、段取りや人員配置の最適化に繋がっています。
- ボトルネックの把握と対策が容易に
特定工程で進捗が遅れている場合、アプリ上のタイムラインやステータス表示ですぐに発見できるため、ボトルネックの早期発見と対処が可能になりました。結果として、生産全体のリードタイムが短縮され、納期遵守率も向上しています。
- 異常発生時の即時通知
アプリにはエラー入力や異常検知時のアラート通知機能も備えており、温度逸脱や仕込みミスなどの問題が発生した際は、関係者に即時共有されるため迅速な対応が可能です。
このように、AppSheetによる製造工程の可視化は、「どこで」「誰が」「何をしているか」をリアルタイムに把握できる体制を構築し、現場全体の生産性と連携力を大幅に向上させました。
4-2 データ入力の省力化:タブレットでの記録
AppSheet導入後、はしづめ製麺の現場では紙への手書き記録が一切不要になりました。すべてのデータはタブレットを使ってアプリ上で記録されるようになり、記入ミスの削減や作業時間の短縮に大きく貢献しています。
- 入力はワンタップ・選択式で完結
仕込み量、作業者名、使用材料のロット番号、温度、湿度などの入力項目は、プルダウン・ボタン・数値入力など直感的に操作できるUIに設計。記録内容はすべてクラウドに即時保存され、紙よりも早く・正確に入力できる環境が整いました。
- 現場に設置されたタブレットで即入力
各製造ラインに設置されたタブレットを使い、作業のその場で記録を完了できるため、後から思い出して記入する「記録の後回し」がなくなりました。これにより、記録の正確性とタイムリーさが格段に向上しています。
- 手書きの読みにくさ・転記ミスがゼロに
これまでの紙帳票では、文字が読めない・書き間違える・他システムへ手入力する際にミスが起こるといった課題がありました。タブレットによる直接入力により、こうしたミスが完全に解消され、情報の信頼性が飛躍的に高まりました。
- 入力内容のチェックも自動化
必要項目の未入力チェックや値の異常検知機能も備わっており、アプリが入力ミスを防ぐ役割も果たします。これにより、現場の作業者が迷わず・安心して記録を進められるようになりました。
データ入力がスムーズになったことで、記録にかかる手間が激減し、より本質的な作業に集中できる体制が整いました。紙ベース運用からの脱却は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩として大きな意味を持っています。
4-3 エラー・異常の即時通知と対応フロー
はしづめ製麺では、AppSheetの導入によって製造現場での「エラーや異常の見逃し」をゼロに近づける体制を整えました。これまで、人の目や勘に頼っていた異常検知や報告が、アプリを介してリアルタイムかつ自動的に処理されるようになったのです。
- 異常データを自動で検出・通知
アプリには**入力値に対するしきい値設定(例:温度が60℃を超えたら異常)**が組み込まれており、作業者がデータを入力した時点で、規定範囲を逸脱していれば即時に警告メッセージを表示。同時に、責任者にメールやアプリ通知で即座にアラートが届きます。 - 誰に、どのように通知するかも自動制御
異常の種類に応じて、通知先も自動的に振り分けられます。
たとえば、温度異常 → 製造責任者・品質管理者へ
材料ロット不一致 → 購買担当者へといった具合に、
最適な担当者が即対応できる体制が整っています。
エラー発生後の対応フローもアプリ上で管理異常が発生した際は、作業者が対応状況をアプリで選択・記録できるようになっています。
原因の特定→再作業の指示→上長への報告済みかどうかなど、一連の対応フローがガイド形式で進行するため、誰でも適切な初動が取れる仕組みになっています。
異常の履歴が蓄積され、改善にも活用
過去に発生した異常の内容、発生時の環境データ、対応内容などはすべてクラウドに自動保存され、トレーサビリティや再発防止に役立てられています。この仕組みが、品質改善・業務改善のPDCAサイクルを高速化しています。
5. アプリ導入による効果と現場の変化
5-1 作業効率と生産性の向上
AppSheetによる製造アプリの導入は、はしづめ製麺の現場における作業効率と生産性を大きく引き上げました。これまで時間や手間がかかっていた作業の多くが、自動化・デジタル化されたことで、無駄な工程が削減され、現場全体がスムーズに流れるようになったのです。
- 手書き・口頭での確認作業が不要に
これまでのように「紙のレシピを探す」「作業進捗を口頭で確認する」といった手間のかかるやり取りが一切不要になりました。アプリ上ですべての情報がリアルタイムで可視化・共有されているため、誰もが「今、何をすべきか」が明確になり、作業の重複や停滞がなくなりました。
- 自動計算で仕込み準備の時間を短縮
その日の受注数や在庫状況に応じて、必要な仕込み量や材料の量がアプリで自動算出されるため、計算ミスや確認の手間がなくなり、準備時間が大幅に短縮されました。
- データ入力の簡略化で作業時間を圧縮
作業記録はすべてタブレットでの選択式入力となり、手書きによる記録・転記・整理といった手間を削減。データは即座にクラウドへ保存され、報告書作成などの業務も効率化されました。
- 業務改善の“気づき”が早くなる
進捗データやエラー履歴を定期的に確認することで、業務のボトルネックや非効率な手順に気づくスピードも速まり、改善サイクルが加速。これにより、日々の業務そのものが“進化し続ける仕組み”へと変わっています。
その結果として、一人あたりの作業時間が短縮され、同じ人員でより多くの製品を安定して生産できる体制が整いました。AppSheetは、単なる業務ツールではなく、現場全体の生産性を底上げする強力なエンジンとして機能しています。
5-2 ミスの削減と品質管理の強化
- 製造アプリをAppSheetで構築・導入したことで、はしづめ製麺の品質管理体制は飛躍的に強化されました。これまで人手と紙で行っていた管理業務がデジタル化されたことにより、ヒューマンエラーの発生率が大幅に減少し、製品の安定品質が実現できています。
- 入力ミス・記録漏れの防止
紙に手書きしていた頃は、「記録し忘れ」「数字の書き間違い」「読めない字」といった人的ミスが日常的に発生していました。AppSheetでは入力欄にバリデーション(入力制限)や必須チェックを設けているため、誤入力や記録漏れを未然に防ぐことができます。
- データの正確性と一貫性が向上
すべてのデータがアプリで一元管理され、リアルタイムで同期されるため、情報の齟齬や重複が発生しません。また、誰がいつ何を記録したかというログも自動保存されるため、追跡や確認が容易です。
- 異常の早期発見・対応が可能に
温度、加水量、使用ロットなどのデータを自動で監視し、基準値から外れた場合は即座にアラートを発報。その場で対応履歴も残せるため、クレームやトラブルに発展する前に未然に防ぐことが可能です。
- 品質に関する情報の蓄積と活用
各製造バッチの詳細情報が蓄積されることで、「どの条件で製麺したものが一番おいしいか」「不良率が低いのはどの工程か」といった分析が可能になり、品質向上に向けた改善施策をデータで裏付けながら実行できるようになりました。
このように、AppSheetによって現場の“なんとなく”から脱却し、“根拠ある品質管理”への転換が進みました。結果として、製品のクレームは激減し、お客様からの信頼もより一層厚くなっています。
5-3 現場スタッフの声と評価
AppSheetによる製造アプリの導入は、現場の作業フローを変えただけでなく、スタッフの働きやすさや意識にも大きな変化をもたらしました。実際に現場でアプリを使っているスタッフたちからは、ポジティブな声が多数寄せられています。
- 「迷わずに作業ができるようになった」
作業手順や注意点がアプリ上に整理されて表示されることで、「何をどうすればいいのか」が一目でわかるようになりました。新人スタッフからは「以前より不安なく仕事ができるようになった」という声があり、教育コストの削減にもつながっています。
- 「記録作業がラクになった」
紙に書く手間がなくなり、指でタップするだけで完了する記録作業に「思った以上に簡単」「スピーディに記録できて助かる」といった評価が多数。入力ミスも減り、「自信を持って作業できる」という安心感にもつながっています。
- 「職人頼みじゃなくなってきた」
ベテラン職人の技を数値化・アプリ化することで、「誰でも同じ品質を再現できるようになってきた」という実感が広がっています。現場では「これでようやく次世代に技術を引き継げる」といった声も聞かれ、属人化の解消が実感を伴って進んでいます。
- 「自分の意見がすぐアプリに反映されるのがうれしい」
AppSheetの柔軟性により、「ここに注意文を入れてほしい」「このボタンを大きくしてほしい」といった現場の声がすぐにアプリに反映されます。「自分たちで現場を良くしている感覚がある」「改善提案が形になるとやる気が出る」という声も多く、モチベーションの向上にも貢献しています。
このように、AppSheet導入は単なるITツールの活用にとどまらず、「現場が主役」の文化づくりや、働きがいのある職場環境づくりにも寄与しています。
6. DX推進における今後の展望と課題
6-1 他工程への展開と業務全体の最適化
- AppSheet製造アプリの導入は、まず製麺工程から始まりましたが、現在ではその効果と利便性が評価され、他の工程や部門への横展開が加速しています。製造だけでなく、在庫管理・出荷・品質管理・日報管理など、業務全体の最適化へと進化を遂げつつあります。
- 在庫管理への展開
原材料や副資材の在庫管理もAppSheet上で一元化され、入庫・出庫の履歴がリアルタイムで可視化されるようになりました。在庫切れや過剰在庫の防止が可能となり、仕入れや発注のタイミングも最適化されています。
- 出荷・配送のトラッキングにも対応
完成品の出荷工程では、ロット番号・出荷先・数量をアプリで記録。配送ドライバーがアプリ上で「出荷済」「配達完了」を更新できるようになり、納品状況のリアルタイム把握が可能になりました。
- 品質管理・トレーサビリティ強化
AppSheetで蓄積された製造データや検品記録により、万が一のトラブル発生時も、該当ロットの履歴を即座に遡ることができる体制が整いました。これにより、顧客対応や改善活動が迅速かつ的確に行えるようになっています。
- 工場全体の「見える化」へ
製造現場のすべての工程がデータ化されたことで、日々の業務状況・作業時間・生産量などがダッシュボードに集約され、経営層もリアルタイムに現場を把握可能になりました。これにより、戦略的な判断やリソース配分が迅速に行える体制が構築されています。
AppSheetの活用は、単なる「作業の効率化」にとどまらず、組織全体の生産性・品質・スピードを高める“経営ツール”としての可能性を広げています。
6-2 デジタル人材の育成と現場との融合
AppSheetの導入は、単なるツールの活用にとどまらず、はしづめ製麺の「人材育成」と「組織文化の変革」にも大きな影響を与えています。特に注目すべきは、現場スタッフが主体的にデジタルツールを活用し、自らの業務改善に取り組む“デジタル人材”へと成長している点です。
- 「現場が主導するアプリ改善」が文化に
AppSheetの強みは、ノーコードで柔軟に変更できる点です。これにより、実際にアプリを使う現場のスタッフが、自ら改善点を提案・修正できる環境が整いました。「この項目はもっと上にあった方が使いやすい」「アラートを強調表示にしたい」といった現場発の意見が即反映される仕組みは、自発性と参画意識を育てています。
- デジタルスキルの底上げと人材の多能工化
最初はITに不慣れだったスタッフも、AppSheetをきっかけにデジタル機器の操作やデータ管理に慣れ、スキルアップを果たしています。今では「アプリの一部を自分で編集できるスタッフ」が複数人在籍し、製造だけでなく改善・管理も担える“多能工”として活躍しています。
- 技術と現場感覚の融合
従来の「現場は現場、ITは別部署」という壁がなくなり、現場スタッフとデジタルツールが共に業務を作る関係が築かれています。結果として、現実に即した実用性の高いアプリが次々と生まれ、業務全体の精度も向上しています。
- 若手とベテランがつながる仕組みに
アプリには、ベテラン職人のノウハウが形式知として落とし込まれ、それを若手が見ながら作業できます。これにより、「デジタルが技術継承を支える新しい架け橋」となり、世代間の知識共有が自然に進むようになりました。
このように、AppSheetを活用したDXは、単に業務効率を高めるだけでなく、“人を育てる仕組み”としても機能しています。はしづめ製麺では、デジタルと現場が共に成長する企業文化が着実に根付きつつあります。